2018年6月5日 西村代表の国会における参考人としての指摘

5月24日に開催された衆議院内閣委員会「ギャンブル(等)依存症対策基本法」審議において参考人として法案に対する意見を述べる機会を得た。「基本法」であることから、法案内の枝葉についての意見は割愛し、いわゆるギャンブル(等)依存症対策が、国民そして国益に寄与するために議論を深めなければならない課題について指摘した。国会での発言(配布資料を含め)、および答弁において指摘した要点を以下に記載する。

 

1)「用語の問題」について

 

■ 両法案では議論の根幹となる「ギャンブル(等)依存症」の定義自体が異なったまま今日にまで至っており、定義の明確化が必須の課題である。

 

■ 今後の対策を展開するうえで、「医療モデル」型の対策とするか、「公衆衛生モデル」型の対策とするのか。モデルの違いは対策費用に影響し、「納税者や事業者も含めた利害関係者が納得できる費用効果の達成」という目標において重要な意味を持つ。

 

■ 「ギャンブル依存症」は限られた領域での通称であり、定義が明確ではない。アルコール、薬物の領域でも「依存症(dependence)」の診断名は消えている。

 

■ 「依存症」の線引きや問題との因果関係の特定よりも、ギャンブルの問題を抱える人を同定し、一早く介入するための診断基準へ世界は移行している。

 

 

(2)「ギャンブル(等)依存症(患者)」とは一体だれを指しているのか。

 

■ 病的な依存状態の人たち(本来の医学的水準の依存症レベル)の比率はギャンブリング習慣を持つ人たち(参加者たち)の1~3%程度。

 

■ 「問題ギャンブラー(プロブレム・ギャンブラー)」と呼ばれる、自己制御を行いながら、ギャンブリング習慣による問題を抱える人たちが参加者の5~10%程度。「問題ギャンブラー」は必ずしも病的な状態に移行しない。多くの参加者は問題を抱えながらも自己調整や自己回復している。

 

■ 世界の対策は、より重篤な「いわゆる依存症」レベルの治療介入を標的として始まったが、「問題ギャンブラー」への早期介入と、依存症水準に進行させない自己制御の支援が中心となった。

 

■ AMED調査の「70万人」はおそらく「問題ギャンブラー」に相当する人たちを指す。病的な依存状態にある重症ギャンブリング障害の人たちはその数分の1、あるいは10分の1程度か。深刻な問題保有者は数万人いる。アルコールとギャンブルの病的依存の医療的な治療法の大差はなく、どちらかに特化する必要性は高くない。

 

■ 「問題ギャンブラー」の発生の予防や、「問題ギャンブラー」を病的な依存状態に進行させないといった、予防を主眼とした対策が重要。

 

■ 問題ギャンブラーには初期段階ほど本人からの援助を求める行動を期待できる。簡易介入は、有効性と費用効果が高く、問題行動の修正効果も高いことが、海外の調査から明らかになっている。

 

■ 問題の発生には「ギャンブリング習慣に先行する併存障害」の影響が大きい。ギャンブル(等)依存症の重症なケースほど、ギャンブル以外の精神医学的要因の影響が大きく存在し、ギャンブルを止めても生活障害が改善しにくく、再発しやすい。「問題ギャンブラー」が問題ギャンブリングに先行した障害を有する率は極めて高い。依存症的であればあるほど、「依存症治療」では十分な改善は難しい。むしろ医療においては、先行または併存する他の精神医学的疾患の除外や同定、治療を行い、問題行動との関連を明らかにし、その後の生活障害を軽減し、安定した福祉・生活支援につなげていくことが重要。

 

■ 精神保健の相談や医療機関が、「『依存症』=『自助グループ』『回復施設』を紹介」という短絡的なパターン化に陥っている日本の援助の在り方は、世界の依存問題対策と乖離している。各機関の特性、適応、限界などを踏まえた連携が図られなければならない。

 

■ カジノの是非はさておき、諸外国のゲーミング産業の発展に伴い、蓄積された多くのエビデンス、知見、それらを支える研究者らの知と実践の蓄積に対して、もっと敬意を払い、学ぶべき。