2020年度ギャンブル等依存症問題啓発週間によせて

JSRG コラム No.1
西村直之

 

 新型コロナウイルス(COVID-19)の世界的感染拡大のために、健康や日々の生活に深刻な影響が続いています。このような状況の中で 2 年目となる 今年のギャンブル等依存症問題啓発週間(5 14 日~20 日)を迎えました。

 

 さまざまな媒体での啓発活動のなかで、ギャンブル等依存症について「ギャンブル等にのめり込み,様々な問題を抱えているにも関わらずやめたくてもやめられない,自分でコントロールができなくなる精神疾患の一つ」という解説がなされているものを目にします。これは、正確ではありません。 ギャンブル等依存症対策基本法において「ギャンブル等依存症」は「ギャンブル等(法律の定めるところにより行われる公営競技、ぱちんこ屋に係る遊技その他の射幸行為をいう。)にのめり込むことにより日常生活又は社会生活に支障が生じている状態」 と定義されています。精神疾患の診断基準には「ギャンブル等依存症」という病名は存在していませんので、「ギャンブル等依存症」は法律の定義に添って理解しないと誤解が生じます。法が定義する「ギャンブル等依存症」は、止められなくなっているかどうか・精神疾患として認定されるものかどうか(医学的な定義)とは関係ない行政用語ですが、この概念は世界で言うところの「問題あるギャンブリング( ProblemGambling:以下 PG)」に相当します。 PG の定義も国や地域によって多少の差異がありますが、最近はいわゆる医学的な病的依存よりも広い範囲で問題がある人たちを捉える考え方が共有されるようになってきています。「やめたくてもやめられない人たち」だけではなく、「やめようと思えずに、続けて問題が生じている人」 、「問題への認識が薄く、やめる必要を感じていない人」、「やめなくても、関わり方を修正すれば問題が改善する人」などなど問題を抱えながらギャンブリングに参加している人たちなど多くの異なったタイプ・問題進行度の人たちが混ざり合っています。

 

 既に起きている重度の問題ギャンブラーに照準を合わせた医療(治療)主導モデルでは、対応はごく限られてしまい、成果が得られないこと 、 問題あるギャンブラーの発生の予防から重症化の防止に向かって、多様な支援を公・産・学・民が協働し進めていく 対策が費用に効果に優れることなどが科学的で客観的なデータ収集・解析によって明らかとなり、これらの知見に基づいて世界の対策は進化し、共通の基盤が作られつつあります。今回の感染抑止対策で、日本が抱えるエビデンスに基づく 対策立案の脆弱さが問題視されていますが、 新型コロナという世界のだれもが未経験な事象ならばともかく、世界がすでに取り組んでいるギャンブリング対策の根幹であるエビデンスの収集と活用について、早急に体制を整備する必要があります。日本は世界と同じ視野にいつ立てるようになるのでしょうか、その日が早く来ることを願っています。

 

 私たち日本 SRG 協議会(Japan Sustainable Responsible Gaming council 略称: JSRG)は、より広い視点からギャンブリングの負の側面を最小化することに取組んでいます。責任あるギャンブリング/ゲーミング(Responsible Gambling/Gaming)の推進に主軸を置き、プレーヤーに対して起こり得る問題の認識、安全なプレーの啓発、自己管理の推進、 自己修正を含む問題が生じた時の対処などの予防に重点を置いた啓発、ギャンブリング産業に対してプレーヤー保護、従業員教育、問題が起きにくい地域環境づくりの取り組みの推進を支援することに取り組んでいます。