【コメントあり】2018年7月6日 ギャンブル等依存症対策基本法が成立(掲載元:日経新聞)

ギャンブル依存症対策法が成立(日経新聞の記事はこちら) 

 

 

 

【西村代表特別寄稿:ギャンブル等依存症対策基本法の成立に寄せて】

 

本日(平成30年7月6日)ギャンブル等依存症対策法が可決されました。本法律はいくつかの点で日本の未来に大きな影響を与える要素を持っています。まず、建付け上は既存ギャンブリング問題の対策法で、IR整備推進のためではないということにはなっていますが、実際本法案によってギャンブル等の依存問題の対策が始まり、その成果をもって国民にIR整備を是としてもらう役割を担っていることは確かです。何らかの国家的プロジェクトに先立ち、健康対策が成果目標を課された形で展開することは日本においては例がないことです。

 

特に依存問題が正面から国家的課題として取り組まれることは、このような機会がなければ永遠になかったかもしれません。一般的に認知が高いアルコールや薬物依存問題でさえ「依存症」としての対策法案はなく、今回「依存症」が法の冠に明記された最初の健康対策法案が誕生したことにも大きな意義があります。今まで少数派問題として十分な法的整備がなされず、予防や問題解決支援、生活再建支援等が薄かった他の依存問題の対策も含めて前進することが期待されます。

 

一方で、本法案は実際に対策効果が証明されなければならないという使命を帯びています。健康対策法案が目標達成使命を帯びるのは当然のように思えますが、メンタルヘルス問題には、背景に複雑な要因があり、さらにそもそもその全体像、実態を正確に把握すること自体が容易ではありません。さらに、明らかに効果を証明する対策を立てることも、証明することもまた容易ではありません。時に、このような現実を無視して目に見える形で成果を国民に見せようとするあまり、人権が無視されたゆがんだ精神医療の普及が国策で進められてしまった時代もありました。政治も国民も表面的な数値を追わずに、法案を未来に向けて真に国民と社会に役立つものとなるように落ち着いて育てていく必要があります。

 

法案が施行されれば、研究者、対策に関わる者、事業者、そしてすべての国民の目の前に、今まで正面から議論され検証されることがなかった様々な課題が浮かび上がるとともに、ギャンブリング問題に関する「事実」に向き合うことになります。「ギャンブル」とは何か?何がギャンブルで何がギャンブルで無いかとう線引きに意味はあるのか?「依存症」とは何か?その言葉で本当に対策は適切にできるのか?「対策」の責任は誰がどのように分担するのか?あるべき娯楽と社会の関係はどのような形にしていくのが良いのか?これから多くのことの議論が必要になります。

 

今日までギャンブリングに関連する法案は「賭博法」の阻却を主としたもので、国民そして参加者、地域社会に与える負の影響へ抑制のためのものではありませんでした。賭博法の阻却のための法令順守や社会貢献が「免罪符」となる時代が終わり、娯楽産業が国益に寄与すると同時に、顧客そして地域の福祉の保護に寄与する責務をもって必要な社会的存在として許容される時代が始まります。

 

基本法は、基本に過ぎずこれからより詳細な内容が出来上がっていきます。また、都道府県の問題意識の持ち方によって条例等で様々な規制も強化されていくことも予想されます。どの様な法律に育てていくか、その責任の一端を事業者は担っており、自主的な取り組みや試行錯誤、各種の研究成果等がその在り方に大きな影響を与えるものと考えられます。IRの推進は、自治体のこれまでの依存対策の意識を大きく変えていきます。その変化に遅れてしまえば、本法律に関わる事業者や業界は過去の産業となっていくでしょう。

 

 「ギャンブル等依存症対策基本法」の法文だけをみれば、そこにはあまり重たい文言はありませんが、この法律の持つ意義と重さは言葉をはるかに超える力をもっています。カジノは関係ない、今までのやり方でどうにかなるだろう…しばらくは誤魔化せても時代は必ず追い付いてきます。宝くじ、公営競技、ぱちんこ、これらの産業に直接的、間接的に関わる全ての事業者は、国民に対し、娯楽産業の未来に対し対策責任を有する当事者となったことを意識していただきたいと思います。(西村)